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2013年11月19日火曜日

リス、ブラックベア、白頭鷲  2006年8月17日

朝目覚めると、外は曇り模様。
テントを畳むとキャンプ場のオーナーの家の玄関を叩いた。
昨日の夜、食料の入ったバッグを預けたのだ。
私営のキャンプ場でクマが出る恐れがあるところで
ソフトシェルのテントで泊る場合は当たり前のことだ。
 
 
 食料の入ったバッグを受け取るとキッチンスペースでコーヒーを入れるため湯を沸かす。

朝食の支度をしているとリスがやってきたので、かわいいな、
とその様子を見ていたらマーガリンの入れ物を齧りはじめた。
 
 「コラ!」と私が手で追い払うとどこかに行ってしまったが、
すぐに戻ってきて今度はトーストを持って行こうとした。全く油断ならない。
 
 
いたずら者のリス。リスぐらいならかわいいものだが。。
こういう動物はどこにでもいる。
 
きっとキャンプ場の客にエサをもらっているのだろう。
 
安易な考えでエサをあげてしまう軽率な人間にうんざりする。
ちなみにこの旅の数年後訪れたオーストラリアのタスマニア島では
国定公園の駐車場でワラビーにカツアゲにあいそうになった。
人慣れした野生動物が一番危ない。 
 
 
居心地のよかったキャンプ場を後にし、Portage Glacierへ向かう。
天気は相変わらず、曇りだ。
 
ただ道も舗装路で走りやすく、自転車で走るには悪くなかった。 
 
Portage Glacierに続くトンネルの手前で前からやってくる車が
窓を開けて私に何か叫んでいた。
 
なんだろう?と思っていたが次に来た車の人の声がはっきり聞こえた。
 
"Be careful!Bear!"
 
 
私は思わずブレーキを掛け止まった。 
 
 
クマ! 
 
 
ブラウンか!ブラックか!
 
いずれにせよマズイ。
 
どうしたものか…引き返すか。
道を横切っただけでもういないかもしれない。
いや、むしろこちらに向かってるかも。
 
一瞬パニックになりながらもとりあえず、
サイドバックのポケットからベアスプレーを取り出し、
レインジャケットのポケットに差した。 
 
少し迷った後、結局そのまま進むことにした。
 
 
果たしてクマはいた。 
 
 
 
ブラックベアだ。
 
 
 
なるほど、ブラウンベアとは明らかに違う。背中にコブがない。
何より大きさが違う。遠くてよくわからないがあれは子グマのようだ。

それにしてもあの至近距離で写真を撮っているオッサンは大丈夫なのか?


森から出てきたブラックベアの子供


私がひとりであたふたしている一方で
クマは特に周囲に気にするわけでもなく、悠々としていた。

そのときはさっぱり気が付かなかったが、写真を見るとあのとき周囲に観光客が写真を撮っていたのがわかる。車の観光客はのんきなもんだ。


とはいえ私も写真が撮りたいので、無謀なオッサンのうしろから写真を撮った。
ビビりすぎだとバカにされるかもしれないが、
至近距離で写真を撮っているオッサンがどうかしてるのであり、
これまでクマやオオカミの恐怖の中で旅をしてきた私からすれば、この距離が限界だった。

正直、万が一の際は、オッサンが襲われるのが先だと思っていた。

写真を撮り、カメラをハンドルバッグにしまうとペダルをいっきに踏み、
ブラックベアの前方を通り抜ける。

ちょうどブラックベアのいる茂みの前を横切るとき、茂みの奥にもう一頭見えた。
手前のよりずいぶん大きかった。母クマだろう。

私は興奮状態のままトンネルを抜け、Portage Lakeへ。






Portage Lakeから見える氷河は立派なものだったが、数ヶ月前にニュージーランドのFox GlacierとFranz Joseph Glacierに相次いで登った後だったので、氷河を見た!という感動はあまりなかったが、海に氷河のかけらが浮かんでいるのを見つけて、おぉっと思った。




湖畔のビジターセンターに行く。
ビジターセンターにはクマの警告とエサを与えるなという注意。
それから周辺の街の気象予報。

まぁお約束の光景だ。


赤白の線がスワードHwy。赤の線がJohnson Pass Trail

カウンターの女性にJohnson Pass Trailの情報を聞く。
このトレイルはちょうどスワードHwyから分岐し、再びスワードHwyに戻る道で
帰国までの限られた時間で寄り道にならないいいルートだった。

ニュージーランドではいいトレイルを走ることができたのでもし行けるならアラスカのトレイルも行きたいと考えたのだ。


そこでそもそも自転車で行けるか確認したかったのだ。
場所によっては自転車禁止の場合もある。

「自転車でいけるかって?あなたマウンテンバイク?なら大丈夫よ。」と
その女性はあっさり言った。


いいじゃないか。

私はビジターセンターを後にした。


風はback wind。しばらくいいペースで進む。


河原のビューポイントで川をみると中州に大きな猛禽類が見えた。


白頭鷲だ。




大きい。数百メートル離れているはずだが、
その大きさと無駄のないしっかりとした躯がはっきりとわかる。

アラスカで見ることができるとは全く考えていなかったので
この出会いには単純に感動した。私はこの出会いに感謝した。


しばらくして白頭鷲は翼を広げた。
翼を広げるとさらにその大きさが際立った。

一度大きく羽ばたくとそのまま川の上を低く飛び去って行った。

私は白頭鷲が見えなくなるまで見送った。




Johnson Pass Trailの入口に来る。
道はいわゆる普通のトレイルだ。登山道の入り口といってもいいかもしれない。


荷物満載のマウンテンバイクで数百メートル走っていくと思ったより走りにくい。
荷物がなければいけるような気もするが、この状態では難しそうだ。

いつか純粋にマウンテンバイキングをしにこのトレイルを走りたいな、と思った。
アンカレッジから比較的近くてアラスカ鉄道も走っているから短期間でも行けそうだ。


そう思って引き返そうとすると大きな糞が数個転がっていた。

大きい。ムースかクマか。この際どっちでも結論は変わらない。
「ハイウェイに戻るか」 私はハイウェイに戻った。



その後はハイウェイはしばらく登りが続いた。そして追いうちをかけるように雨が降り始め気が滅入ってくる。

辛いからと言ってペダルを踏むのを止めれば先には進めない。
だましだまし走る。


Summt Lakeというところでレストランがあったので休憩。
コーヒーとチーズケーキを注文する。


数ヶ月前、ニュージーランドを一時ともに旅をしたスイス人が
「シマ、あなたいつもチーズケーキばかり食べているわねぇ」と言っていたのを思い出した。

彼女は今どうしているだろうか。
また手紙を書こう。


レストランで支払いをするとき、チップのことをさっぱり忘れていたが
「釣りはいるか」と店の若い男性に言われ「要らない」と答えた。
こういうどうでもいいことははっきり覚えていたりするものだ。


サミットレイクから今日の目的地Moose Passまでは下り基調。
気合を入れてペダルを踏む。


ムースパスに到着。
キャンプ場での支払いをしようとすると小銭がなくて払えず、
向かいのジェネラルストアで買い物してお金を崩す。
ここは感じの悪い店だった。一日走って疲れたあとにはよくない。

ただ、その前に寄ったリカーストアの年配の女性は感じがよかった。
妹が沖縄生まれらしい。


キャンプ場は森の迷路のような作りで、水場が見つけられなった。
疲れていたので水場はあきらめ、今朝、昼食用に作ったサンドイッチの残りと
インスタントラーメンで夕食を済ませ、ビールとウィスキーの時間へなだれ込んだ。


本格的にアラスカで走るのは明日が最後になる。
天候は相変わらずのようだが後悔しないよう走りたいものだ。

2013年6月3日月曜日

自由であること 2006年8月2日

長い一日だった。

居心地の良かった「Go North Hostel」を離れ、Fairbanksを後にした。
北極海まで無事にたどいりついて帰ってくることができたら、
再び「Go North」に戻ってこようと決めた。

アラスカに来る数か月前までニュージーランドを旅していたが、
そのどの宿やキャンプ場に負けない魅力がある。

アラスカ州のハイウェイマップ。パイプラインと共に北極海に延びるのがダルトンハイウエイ


Fairbanksから北極海に行くためにはDalton Hwyしかないが、
そこに出るためには、Steese HwyとElliot Hwyを経由していく必要がある。

これら2本のハイウェイは大したことないだろうとたかをくくっていたが、
とんでもなかった。

Fairbanksを出るのにまず苦労した。
街の外れまでは順調に来るのだが、目指す最初の街(集落?)のFoxに出る道がわからない。
とにかくFoxに着いたのは予定よりだいぶ遅くなってからだった。


Fairbanks郊外のパイプライン。このパイプラインの果てに北極海がある。

ハイウェイの路肩の広いところで休憩。
前日に「Fred Meyer」で購入した長いバゲットのサンドイッチを齧る。

今更気が付いたが、私が走るアラスカのハイウェイにはトンネルがない。

つまり、目の間に広がるアラスカの山々はどこかで必ず越えないと
その先にはたどり着けない。

やれやれ。

しかし、道は確実に存在する。
とにかく走る続けるしかない。


午後1時頃、Foxから5.5マイルのところにあるHill Topのトラックステーションに着く。
ひっきりなしに客がやってきてにぎやかだった。
この日の出費はここでのコーヒー代1ドル25セントのみ。

道はずっと長い登りが中心で思った以上に距離が稼げなかった。
予定ではダルトンハイウェイ手前のLivengoodまで行けると考えていたが甘かった。
ダルトンハイウェイを前に追加した水と食料の重さがかなり響いて、
登りではセンター×ローのギアを踏んだ。膝に負担がかなりくる。

前哨戦のエリオットハイウェイでこの様では先が思いやられる。



今日はとにかく疲れた。


エリオットハイウェイ29マイルあたりに広い駐車場があった。
トレイルの入り口らしい。

ちょうどいい。
目標よりだいぶ手前ではあるが今日はここまでにしよう。



トレイルヘッドの看板の写真。いつかこんな旅がしてみたいものだ。

疲れ果てた中、テントを張った。


洗濯とかもうどうでもいいと思うとヒマでいいなと思った。


一、二時間眠った。


ふいに目が覚め、腹が減ったのでメシを食う。


メシを作って食っていると何気なく思った。


「あぁ、おれは今自由なんだ。」と。


それまでの私は
「明日は○×まで行きたい。70マイルオーバーで長いから早く寝よう。明日も早起きだ。」
アラスカまでやってきて、時間や走る距離 ばかり気にしていた。

早く、まずはダルトンハイウェイにたどり着かなくては。
早くダルトンハイウェイを北に行かなくてはそんなことばかり考えていた。

未だ 見ぬ辺境のハイウェイに私はいくらか恐れを抱いていた。


だが、どうだ。


何も無いところにテントを張り、自分したいこと、単純な欲求を満たす。
眠り、食い、酒を飲む。
明日は目が覚めたら起きて、行けるところまで行けばいい。
今はただ、アラスカの沈まぬ太陽の日を浴びながら、酒を飲み、本を読む。

包み込むような柔らかい日と、太陽から吹く風が心地よく通り過ぎていく。



自然に流れる時間。



一台の車がやってきた。「ハイ」私は軽く手を上げた。

「極北に行くのか」とドライバーの老人が聞く。

「ああ、プルドーベイまで」私はさりげなく答えた。

このハイウェイ上でどれだけの自転車乗りが同じ会話を交わしたのだろうか。

聞き手はいつも羨望の眼差しで自転車乗りを見るが、
自転車乗りはまだ何かを成し遂げたわけではなく、ただ旅の途中でしかない。
そんなとき自転車乗りはどんな顔をしているのだろう。

車が去るとき、助手席の若い女性が
「よかったら持っていって」といくつか食料を差し出してくれた。

「すまないが、あまり荷物は持てないんだ。一つだけ頂くよ。有難う。」

なぜか好意を断ることに後ろめたさはなかった。
私は彼女から一つだけ食料を受け取った。

「Good luck!」

車は去っていった。

太陽から風は止むことなく吹き続けていた。

世界のあり方が何であれ、今はこの日を感謝しよう。
明日は明日を旅する。