2013年11月30日土曜日

スワード 余韻の旅 2006年8月18日

雨の一日だった。

幸いキャンプ場を出るまではあまり降られることなく助かった。
雨の中、濡れたテントを撤収する作業は本当に大変である。
濡れたテントは畳みにくいうえ、その作業だけでずぶ濡れになるのは必至だ。
 また、それで一日が始まるとなるとその日のモチベーションが下がってしまう。

キャンプ場を後にするとその後は降られっぱなしだった。
さらに風は向かい風。
道は思ったより上ることなく、下り基調で助かった。

途中、ハイウェイの横にあったトイレの軒先で休憩。
レインウェアのポケットに入れてあったキャラメル味の小さなナッツバーを数個口に放り込んだ。


余談だが、ニュージーランドのスーパーでは
箱に5,6本入ったミューズリーバーがよく売られていて、補給食として非常に重宝したが、
アラスカではそうしたものはあまり見かけなくて、
小さめの個包装されたスニッカーズのようなものしか見つかられなかった。

このときもそうしたカロリーの高いお菓子をポケットに入れていた。
甘い甘い味が口に広がる。
甘すぎる味が走るエネルギーとなって体に満ちていくようで走る気力がわいてくる。


ポーテジグレーシャーのポストカード。どうしてアラスカのポストカードはロゴがダサいのか。



今日スワードに着けば、夕方の列車でアンカレッジに戻る。


自転車でアラスカを走るのは今日が最後なのだ。

とはいえ、弱いとは言えない雨の中だ。

冷えた体は正直である。
自転車の旅が終わってしまうというという想いよりも
早くスワードの街に辿り着きいという気持ちの方が強かった。



雨の中、走り続けていると靴のクリート(ぺダルを靴とを固定する金具。靴の裏にある)から水が入ってきて靴の中がベチャベチャになってきた。
その上、シューズカバーとレインパンツの間から浸水してきた。
当時出たばかりの自転車用のゴアッテクスシューズの上からシューズカバーをしていても2時間雨の中走り続けていればこんなものである。

手袋も普通のグローブの上から雨用のモンベルのオーバーグローブをしていたが、これもダメだった。ないよりはマシ程度といったところか。

雨の中を走るのは大変である。
それでも走らなくてはならない人はレインギアにはちゃんと投資をしてほしい。






スワード手前、最後の6、7マイルが工事をしていて走りにくかったが、スワードには思いのほか早く到着した。

まずは食事だ。
レストランに入り、時計を見ると11時58分。
雨の中、30マイルを3時間弱ならいい内容だろう。

食事はハリバットバーガーを食べた。


ハリバットは巨大なヒラメと思ってもらえればいいだろう。

スワードはスポーツフィッシングが盛んらしく、巨大なハリバットと映っている写真をよく見る。
この手の写真をスワードでよく見る。web上より転載

バーガーの味はまぁフィレオフィシュだ。
結局アラスカではシーフードをほとんど食べなかった。


アンカレッジまで戻る列車の時間までまだ時間がある。
しばらく土産物屋を見て回るがめぼしいものがなかった。

夕食は列車の中になるので食事を用意しなくてはいけない。
食事をしたレストランはハーバー近くだが、周辺にスーパーが見当たらないので街の入り口まで戻る。

スーパーの前で自転車から降りると、おっさんに話しかけられる。
「あんたさっき見たよ。雨の中ハイウェイ走ってただろ?」

毎度おなじみの会話だが、こういう会話も最後かもしれないとおもうと少しさびしい。

スーパーでは安かったトビコの巻き寿司とポテトチップス、ビールとウィスキーを買った。
巻き寿司はまだマシなクオリティだったが、握り寿司は商品とは思えないぐらいぐちゃぐちゃで笑えた。





鉄道の駅には2時半ごろ着いた。

寒い。

午前中、雨の中走り続けたせいで服がぬれたままだ。
乾いた服に着替えて、ウィスキーを口に入れるがあまり温まらない。
よほど体温が下がってしまったらしい。

もう一度街を一周しようかと思ったが、
雨の中出歩く気にならず、列車の出発まで待った。

スワードの駅舎。web上より転載

スワード半島を走った数日間はアラスカの余韻といった感覚だった。
ダルトンハイウェイを北極海まで行き、帰国までの残された時間をどう過ごすか。

厳しい環境の中、強烈な経験となったダルトンハイウェイの旅の後で
気候も比較的温暖なスワードハイウェイの旅は極北とは違ったアラスカの自然を教えてくれた。
天候こそ恵まれなかったかもしれないが、穏やかな旅だった。

今思えば、ダルトンハイウェイよりも気負いなく旅ができて、自然体の旅であったと言えるかもしれない。





午後6時になって列車が出発した。

しばらくして車窓を見ると14マイルのマイルポストが見えた。
スワードから14マイルである。
そうだ、午前中ハイウェイがぐっと上って線路を越えたが、ここだ。
踏切になっておらず、高架になっているのをうんざりして上ったのを思い出す。

午前中の出来事なのにもっとずっと前のことに思えた。


鉄道の旅はそれほどの感動もなく過ぎて行った。

それでも一度、正面にグレイシャーが大きく見えたときには感動した。
午後9時くらいに撮影した動画を見ると外が薄暗い。

白夜が終わったとはいえこのくらいの時間まで明るかった。



アンカレッジに到着した。

スケジュール通り午後10時過ぎに到着した。
自転車は貨物車両にサイドバッグと別に積まれていたが、
自転車が先に出てきた。

照明が明るく照らすホームに荷物がどんどん積まれていく。
ホームだけ明るい。

結局サイドバッグは一番最後に出てきた。


雨の中、鉄道の駅から予約をしてある宿、スピナードホステルへ向かう。
アンカレッジ滞在は全部スピナードに泊った。

フェアバンクスから戻ったときもそうだが、
駅のある市街地から空港近くのスピナードに行くのに自動車専用道路があり
スピナードに行くのに苦労した。


スピナードに到着。フロントはしまっていたが、
階段に名前の書いたメモがあり、部屋と指定のベッド番号が書いてあった。

少し前に着いたのだろうか、日本人の客が困った様子で立っていた。
あきらかに年上の男性だったが先輩面して話す。
カードも使えるがキャッシュのほうが安いこと、などなど。
男性は自分のメモを見つけると部屋へ消えていった。


部屋に荷物を置き、シャワーを浴びる。
今回はベッドが下で楽だ。
久しぶりのベッドでリラックスする。


明日は溜まった洗濯をしよう。
明日は荷物を整理しよう。
明日は土産を買って物欲を満たそう。
明日は米を炊いて食おう。

明後日の朝、ついに帰国だ。



2013年11月19日火曜日

リス、ブラックベア、白頭鷲  2006年8月17日

朝目覚めると、外は曇り模様。
テントを畳むとキャンプ場のオーナーの家の玄関を叩いた。
昨日の夜、食料の入ったバッグを預けたのだ。
私営のキャンプ場でクマが出る恐れがあるところで
ソフトシェルのテントで泊る場合は当たり前のことだ。
 
 
 食料の入ったバッグを受け取るとキッチンスペースでコーヒーを入れるため湯を沸かす。

朝食の支度をしているとリスがやってきたので、かわいいな、
とその様子を見ていたらマーガリンの入れ物を齧りはじめた。
 
 「コラ!」と私が手で追い払うとどこかに行ってしまったが、
すぐに戻ってきて今度はトーストを持って行こうとした。全く油断ならない。
 
 
いたずら者のリス。リスぐらいならかわいいものだが。。
こういう動物はどこにでもいる。
 
きっとキャンプ場の客にエサをもらっているのだろう。
 
安易な考えでエサをあげてしまう軽率な人間にうんざりする。
ちなみにこの旅の数年後訪れたオーストラリアのタスマニア島では
国定公園の駐車場でワラビーにカツアゲにあいそうになった。
人慣れした野生動物が一番危ない。 
 
 
居心地のよかったキャンプ場を後にし、Portage Glacierへ向かう。
天気は相変わらず、曇りだ。
 
ただ道も舗装路で走りやすく、自転車で走るには悪くなかった。 
 
Portage Glacierに続くトンネルの手前で前からやってくる車が
窓を開けて私に何か叫んでいた。
 
なんだろう?と思っていたが次に来た車の人の声がはっきり聞こえた。
 
"Be careful!Bear!"
 
 
私は思わずブレーキを掛け止まった。 
 
 
クマ! 
 
 
ブラウンか!ブラックか!
 
いずれにせよマズイ。
 
どうしたものか…引き返すか。
道を横切っただけでもういないかもしれない。
いや、むしろこちらに向かってるかも。
 
一瞬パニックになりながらもとりあえず、
サイドバックのポケットからベアスプレーを取り出し、
レインジャケットのポケットに差した。 
 
少し迷った後、結局そのまま進むことにした。
 
 
果たしてクマはいた。 
 
 
 
ブラックベアだ。
 
 
 
なるほど、ブラウンベアとは明らかに違う。背中にコブがない。
何より大きさが違う。遠くてよくわからないがあれは子グマのようだ。

それにしてもあの至近距離で写真を撮っているオッサンは大丈夫なのか?


森から出てきたブラックベアの子供


私がひとりであたふたしている一方で
クマは特に周囲に気にするわけでもなく、悠々としていた。

そのときはさっぱり気が付かなかったが、写真を見るとあのとき周囲に観光客が写真を撮っていたのがわかる。車の観光客はのんきなもんだ。


とはいえ私も写真が撮りたいので、無謀なオッサンのうしろから写真を撮った。
ビビりすぎだとバカにされるかもしれないが、
至近距離で写真を撮っているオッサンがどうかしてるのであり、
これまでクマやオオカミの恐怖の中で旅をしてきた私からすれば、この距離が限界だった。

正直、万が一の際は、オッサンが襲われるのが先だと思っていた。

写真を撮り、カメラをハンドルバッグにしまうとペダルをいっきに踏み、
ブラックベアの前方を通り抜ける。

ちょうどブラックベアのいる茂みの前を横切るとき、茂みの奥にもう一頭見えた。
手前のよりずいぶん大きかった。母クマだろう。

私は興奮状態のままトンネルを抜け、Portage Lakeへ。






Portage Lakeから見える氷河は立派なものだったが、数ヶ月前にニュージーランドのFox GlacierとFranz Joseph Glacierに相次いで登った後だったので、氷河を見た!という感動はあまりなかったが、海に氷河のかけらが浮かんでいるのを見つけて、おぉっと思った。




湖畔のビジターセンターに行く。
ビジターセンターにはクマの警告とエサを与えるなという注意。
それから周辺の街の気象予報。

まぁお約束の光景だ。


赤白の線がスワードHwy。赤の線がJohnson Pass Trail

カウンターの女性にJohnson Pass Trailの情報を聞く。
このトレイルはちょうどスワードHwyから分岐し、再びスワードHwyに戻る道で
帰国までの限られた時間で寄り道にならないいいルートだった。

ニュージーランドではいいトレイルを走ることができたのでもし行けるならアラスカのトレイルも行きたいと考えたのだ。


そこでそもそも自転車で行けるか確認したかったのだ。
場所によっては自転車禁止の場合もある。

「自転車でいけるかって?あなたマウンテンバイク?なら大丈夫よ。」と
その女性はあっさり言った。


いいじゃないか。

私はビジターセンターを後にした。


風はback wind。しばらくいいペースで進む。


河原のビューポイントで川をみると中州に大きな猛禽類が見えた。


白頭鷲だ。




大きい。数百メートル離れているはずだが、
その大きさと無駄のないしっかりとした躯がはっきりとわかる。

アラスカで見ることができるとは全く考えていなかったので
この出会いには単純に感動した。私はこの出会いに感謝した。


しばらくして白頭鷲は翼を広げた。
翼を広げるとさらにその大きさが際立った。

一度大きく羽ばたくとそのまま川の上を低く飛び去って行った。

私は白頭鷲が見えなくなるまで見送った。




Johnson Pass Trailの入口に来る。
道はいわゆる普通のトレイルだ。登山道の入り口といってもいいかもしれない。


荷物満載のマウンテンバイクで数百メートル走っていくと思ったより走りにくい。
荷物がなければいけるような気もするが、この状態では難しそうだ。

いつか純粋にマウンテンバイキングをしにこのトレイルを走りたいな、と思った。
アンカレッジから比較的近くてアラスカ鉄道も走っているから短期間でも行けそうだ。


そう思って引き返そうとすると大きな糞が数個転がっていた。

大きい。ムースかクマか。この際どっちでも結論は変わらない。
「ハイウェイに戻るか」 私はハイウェイに戻った。



その後はハイウェイはしばらく登りが続いた。そして追いうちをかけるように雨が降り始め気が滅入ってくる。

辛いからと言ってペダルを踏むのを止めれば先には進めない。
だましだまし走る。


Summt Lakeというところでレストランがあったので休憩。
コーヒーとチーズケーキを注文する。


数ヶ月前、ニュージーランドを一時ともに旅をしたスイス人が
「シマ、あなたいつもチーズケーキばかり食べているわねぇ」と言っていたのを思い出した。

彼女は今どうしているだろうか。
また手紙を書こう。


レストランで支払いをするとき、チップのことをさっぱり忘れていたが
「釣りはいるか」と店の若い男性に言われ「要らない」と答えた。
こういうどうでもいいことははっきり覚えていたりするものだ。


サミットレイクから今日の目的地Moose Passまでは下り基調。
気合を入れてペダルを踏む。


ムースパスに到着。
キャンプ場での支払いをしようとすると小銭がなくて払えず、
向かいのジェネラルストアで買い物してお金を崩す。
ここは感じの悪い店だった。一日走って疲れたあとにはよくない。

ただ、その前に寄ったリカーストアの年配の女性は感じがよかった。
妹が沖縄生まれらしい。


キャンプ場は森の迷路のような作りで、水場が見つけられなった。
疲れていたので水場はあきらめ、今朝、昼食用に作ったサンドイッチの残りと
インスタントラーメンで夕食を済ませ、ビールとウィスキーの時間へなだれ込んだ。


本格的にアラスカで走るのは明日が最後になる。
天候は相変わらずのようだが後悔しないよう走りたいものだ。